労働災害とは
まず、「労働災害」とは、労働者が業務中に負った怪我や疾病などの事故、あるいは死亡事故のことをいいます。 労働災害だと認められるためには、「業務上」起きた事故である必要があります。 ①「業務上」とは、業務が原因で発生した事故といえることであり、業務と傷病などの間に、一定の因果関係がある場合(「業務起因性」)を言います。 ②また、労災保険が適用される前提として、労働関係のもとで起きた事故である(「業務遂行性」)必要もあります。 「労災」だと認められるためには、以上の2つの要件を満たす必要があります。 では、実際に、労災として、認められた事例として、どのようなものがあるのでしょうか。 次に、具体的な事例を見ていきたいと思います。労働災害と認められた事例
労災として認められた事例は、以下のようなものがあります。 いずれも、事業主側に何らかの対処義務があったにも関わらず、それを怠っていたと判断された点がポイントとなります。(1)転倒事例
【事例】
クリーニング工場にて、被災者は、結束機の周囲の床に落ちていたバスタオルに気づかず、バスタオルで足を滑らせ、転倒し、足小指を骨折した。
この事例では、転倒の原因となるクリーニング物が乱雑に放置されていたにもかかわらず、事業主側で、クリーニング物を収納する箱を用意しておらず、結束機周囲の整理整頓を徹底していませんでした。
バスタオルを踏んだという労働者側の過失はあるものの、そもそも、事業主において、労働環境の整理整頓を徹底させていなかったということが、事故の原因であると考えられます。
このような事故が起こらないようにするためには、事業主として、⑴結束機周囲の整理整頓を徹底させることや、滑りにくい履物を着用させること、⑵転倒災害防止のために、労働者に対し、職場における安全衛生教育や研修を十分に実施する必要があったといえます。
(2)重い物を持ち上げたために、腰を痛めた事例
【事例】
製造業の作業場で、被災者が資材の整理を行っており、薄鉄板のコイル巻き(約30kg)を、指定場所に移動するため中腰でこれを抱えた際、背中から腰部にかけて痛みを感じ、病院を受診したところ、腰椎椎間板ヘルニアと診断された。
このような事故が起こった原因としては、労働者において、無理な体勢で重量物を持ち上げたという要因もあるものの、そもそも、事業主において、重量物の取り扱いについて、マニュアル化をしていなかったことが挙げられます。
このような事故を防止するためには、事業主において、⑴できるだけ、重量物の取り扱い作業では、自動化及び省力化を図り、人力の負担を軽減するように努めること、⑵人力で取り扱う場合には、作業者の性別及び体重に応じて、重量を制限すること、そして、⑶重量物を取り扱う際は、作業前、中、後に、腰痛予防の体操を取り入れることなどを徹底する必要があったと言えます。
(3)通勤中に交通事故に遭った事例
【事例】
通勤のために、社用車で職場に向かっていたところ、信号待ちの間に、後ろからわき見運転の自動車に追突され、むち打ちの傷害を負った。
通勤時の事故が労働災害と認められるためには、事故の起きた当日に就業する予定であったこと、または、現実に就業していたことが必要となります。
もっとも、その移動方法が合理的であった場合に限って、通勤時の労働災害であると認められることになります。
例えば、仕事帰りの飲食のために通勤路から関係のない店に立ち寄った場合や、就業に使用していない私物を取りに帰る途中での事故などの場合には、労働災害として、認められません。
(4)配達中、雨で足を滑らせ転倒した事例
【事例】
新聞配達業で、被災者が新聞を配達中、配達先の階段を登っていたところ、雨で足を滑らせ、バランスを崩し、後方路上に尻もちをついて、負傷した。
この事例では、事業場において、安全衛生活動を行う者が選任されておらず、安全衛生活動が行われていませんでした。
このような事故が起こった原因としては、雨で足を滑らせたという労働者側の過失もあるように思えますが、そもそも、事業主において、安全衛生活動が不十分であったことが挙げられます。
このような事故が起こらないように防止するには、⑴配達を行う際、天候に留意し、特に降雨、降雪、路面凍結等の際は、足元を十分に警戒して配達するように徹底すること、また、⑵事業場において、安全衛生活動を行う者を選任し、危険予知の実施や、配達区域における危険マップを作成するなど、安全意識の高揚を図り、効果的な安全衛生活動を実施することなどが考えられます。
小括
以上、労働災害として認められた具体的な事例を紹介しました。 労働者としては、会社・職場において、事故が起きないような体制が整備されているかを、確認する必要があると言えるでしょう。 では、次に、労働災害だと認められた場合に受けられる補償について、簡単に解説していきたいと思います。労働災害の補償内容
⑴ 療養補償給付
まず、診察、手術、入院などにかかった費用として、「療養補償給付」が支給されます。これには、①「現物給付としての療養給付」と、②「現金給付としての療養費用の支給」があります。
①「現物給付としての療養給付」とは、指定医療機関や薬局等において、無料で、治療や薬剤の支給等を受けられるというものです。
②「現金給付としての療養費用の支給」とは、近くに指定医療機関がない等の理由で、指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受ける必要がある場合に、その療養にかかった費用を、現金で受け取ることができるというものです。
⑵ 休業補償給付
療養のために働くことができず、賃金を受け取れない場合には、その4日目から、「休業補償給付」が支給されます。 内容としては、1日の休業につき、「給付基礎日額」の60%が支給されます。「給付基礎日額」とは、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。
休業補償給付は、賃金を受けない日ごとに請求権が発生します。
その翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅してしまうので、注意が必要です。
⑶ 障害補償給付
業務上、負傷または疾病を負った場合には、それらが治ったと診断されたとしても、後遺症が残る場合があります。 その場合に、その障害の程度に応じて支給されるのが、「障害補償給付」です。 障害等級には、障害の重さに応じて、1級から14級まであります。労災においては、完全に症状が治るまで、療養を続けるのではなく、症状が安定し、医学上認められた医療行為を行っても、それ以上良くならない場合に、「症状固定」とされます。
症状固定をした際に、後遺症が存する場合には、障害補償給付が受けられることとなります。
障害補償給付には、「障害補償年金」として支給される場合や、「障害補償一時金」として支給される場合があります。
⑷ 遺族補償給付
労災によって、被災者が亡くなってしまった場合、その収入により生計を維持していた遺族に対して、「遺族補償年金」または「遺族補償一時金」が支給されます。 配偶者以外の遺族については、労働者の死亡の当時、一定の高齢であるか、または一定の年少であること、あるいは一定の障害状態にあることが必要となります。⑸ 葬祭料
労働者が死亡してしまった場合に、葬祭に通常要する費用を考慮して、厚生労働大臣が定める金額が支給されます。 なお、葬祭料は、労働者が亡くなった日の翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅するので、注意が必要です。⑹ 傷病補償年金
業務上の負傷、疾病が療養開始後1年6か月を経過しても治っていない場合において、その時点における障害の程度が1級から3級である場合には、「傷病補償年金」が支給されます。⑺ 介護補償給付
「障害補償年金」または「傷病補償年金」を受ける権利を有する被災者が、常時または随時、介護を要する状態にあり、かつ、実際に常時または随時、介護を受けているときには、「介護補償給付」が支給されます。まとめ
労働災害として認められた実際の事例を紹介しつつ、労災と認定された場合に受けられる補償内容を解説しました。 労働災害と認められた場合には、上記⑴から⑺の補償を受けられる可能性がありますが、それぞれの補償の給付要件・支給額等は、その被災者の置かれた状況により細かく定められているため、実際にどのような給付を受けられるかは、弁護士など、労働問題に詳しい専門家に相談することをお勧めします。ご相談 ご質問
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