仕事中にケガを負ったり、仕事によって病気になったりした場合、労働者が労災を申請したいと考えても、会社が労災申請に協力してくれないことがあります。
この記事では、そのような場合にどのように対応すればよいか等について、弁護士がわかりやすく解説します。
そもそも労災とは何か
労災とは、労働者に労働が原因で生じたケガや病気のことをいいます。
労災と認められるためには、ケガや病気が労働(業務)により生じたものである必要があります。
仕事中に負ったケガなどの他に、通勤(会社に向かう途中・会社から帰宅する途中の両方を含みます。)中のケガも含みます(いわゆる「通勤災害」です)。
労災隠し
労災が発生した場合、労働安全衛生法100条によれば、事業者は、「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署長に提出しなければならないとされています。
事業者の中には、労災事故の発生の事実を隠すために、故意に労働者死傷病報告書を提出しない、または、労働者死傷病報告書に虚偽の内容を記載して提出することがあります。
これらの行為をいわゆる「労災隠し」といいます。
労働者死傷病報告の提出義務に違反したときには刑事罰が科されます。
具体的には、労災隠しの刑事罰として、50万円以下の罰金が規定されています。
なお、労災隠しの場合、法人・事業主ともに同様の刑事罰を受ける可能性があります(労働安全衛生法第120条、121条)。
企業が労災隠しを行う理由
では、このように罰則を受ける可能性があるにもかかわらず、なぜ労災隠しを行う企業が存在するのでしょうか。
以下では、企業が労災隠しを行う理由について紹介します。
労災保険料が上がってしまうから
労働保険のうち、労災保険は、「メリット制」が導入されており、使う回数と払われた保険料の額により翌年納める労災保険料が上がります。
納める保険料をできるだけ少なくするために、労災申請を行いたくないと考える企業もあるのです。
なお、「メリット制」により労災保険料が増減するのはこの制度が適用される一定規模・業種の事業者のみであるため、従業員が20人未満の会社であれば、メリット制の対象外であり労災保険を使っても翌年から保険料が上がることはありません。
企業イメージを損なうから
労災事故が起きたということは、労災防止を徹底していない企業であるというイメージを世間に広めてしまいます。そうなると、これまで受注できていた仕事が受注できなくなったり、取引先から取引を停止されたりするおそれが生じると考えられます。
場合によっては、その企業の商品やサービスの売上に影響してしまうこともあります。
手続きが面倒・よくわかっていないから
単に「労災申請の手続きが面倒だから」という理由で労災申請をしてもらえないこともあります。
また、それほど大きくない企業では、労災申請の手続きが良く分かっていないため、労災申請に消極的であることもあります。
労災隠しで企業がよく使う言葉
企業が労災隠しをしようとする場合、以下のような主張をしてくることがあります。
このようなことを言われても受け入れず、あくまでも労災を申請してもらうようにしましょう。
「パート・アルバイトだから労災は適用されない。」
「労働者」であれば、労災が適用されるところ、パート・アルバイトも「労働者」ですので、労災は適用されます。
「健康保険を使って欲しい。」
労災の場合は、健康保険を使うことはできません。治療費等は労災から支給してもらうことになります。
「自分の不注意なのだから、労災にはならない。」
労働者に不注意があったとしても、事故が業務中に発生したもので、事故とケガ・病気との間に因果関係があれば、労災にあたります。
労災隠しをされたときの対処法
労災申請は、会社に協力してもらって行うのが通常ですが、会社が労災隠しを行い協力してくれないときは、労働者本人が対応する必要があります。
労働基準監督署に相談する
会社に労災申請をしてもらえない場合は、勤務先を所轄する労働基準監督署に相談しましょう。
労働基準監督署は、労災隠しに対しては逮捕または書類送検の上罰金刑を科すなど、非常に厳しい態度で臨んでいます。
労災申請は労働者本人でもできるので、労働基準監督署に相談したのち、自分で申請手続きをしましょう。
申請用紙に会社の押印欄(いわゆる「事業主証明」)がありますが、事情を話せば会社の押印がなくても受理してもらえます。
労災指定病院を受診する
業務が原因のケガ・病気をしたときは、なるべく早く労災病院や労災指定の医療機関を受診するようにしましょう。
「会社から労災として扱わないと言われたから、病院にも行かなかった」という方は多いですが、そうなると、症状が耐えがたいほどに悪化したときに初めて病院に行ったところで、時間が経過してしまっていることから労災と症状との因果関係が不明ということになってしまい、労災によるケガであることが証明できないという事態にもなりかねません。
労災病院や労災指定の医療機関が近くにないときは、それ以外の医療機関を受診してもかまいません。
労災指定の医療機関以外の病院では、いったん窓口で一部負担金を支払わなければなりませんが、後で請求すればそのお金が返ってきます。
健康保険から労災保険へ切り替える
労災であるにもかかわらず、健康保険を使って病院を受診していた場合は、途中からでも健康保険から労災保険に切り替えができるかどうか、病院に相談してみましょう。
切り替えできる場合
切り替えできる場合は、今まで受診したときに窓口で支払った金額(自己負担金)が返金されます。切り替えのためには、労災保険の所定の様式に記入のうえ、病院に提出する手続きが必要です。
切り替えできない場合
切り替えできない場合は、まず加入している健康保険組合(保険者)などに治療中のケガ・病気が労災であることを申し出ましょう。
健康保険組合などから医療費の返還通知書が届いたら、指定された金額を支払います。
その後、所定の様式に記入のうえ、返還額の領収書と今まで病院の窓口で支払った金額の領収書を添えて労働基準監督署に請求してください。
なお、一時的に医療費を全額負担することが難しい場合であっても、労災認定を受けていれば、自己負担せずに労災保険を請求できることがありますので、とにかく一度労働基準監督署に相談してみるとよいでしょう。
会社に対して損害賠償請求ができる場合もあります
労災認定を受けて給付を受けると同時に、会社に安全配慮義務(労働者の安全に配慮する義務)違反がある場合、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
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