労働災害が起こってしまった場合、一定の場合には会社への責任追及をすることができ、こうした追及をすることでより適切な損害の補填を受けることができます。
ここでは、会社に対して責任追及をすることができる条件と、会社に対して責任追及をすることを考えている場合にしてはいけないことをご案内いたします。
労災の補填範囲
労災保険給付を申請することで、ある程度の損害を補填してもらうことは可能です。
ですが、労災保険給付は、労災保険で認められている項目についてしか行われませんし、金額についても一定の計算式や表などに基づいて機械的に行われることから、必ずしも十分な補填を受けることができません。
具体的には、以下のような給付を受けることができます。
労災保険の補償 | 給付内容 | 給付額 |
療養給付 | 傷病で療養するとき | 労災病院または労災保険指定医療機関などで療養を受ける場合は必要な療養の給付を、それ以外で療養を受ける場合は費用を支給 |
休業給付 | 傷病の療養で働くことができず、賃金を受けとることができないとき | 休業4日目から、1日につき給付基礎日額の60%相当額 休業特別支給金として休業4日目から1日につき給付基礎日額の20%相当額を給付 |
障害給付 | ①障害等年金 傷病が治癒した後に障害等級第1級から第7級までの障害が残ったとき ②障害等一時金 障害が治癒したときに障害等級第8級から第14級までの障害が残ったとき | 1級:給付基礎日額の313日分 2級:277日分 3級:245日分 4級:213日分 5級:184日分 6級:156日分 7級:131日分 障害特別給付金として342万円159万円の一時金、障害特別年金として算定基礎日額131日分から313日分の年金 8級:給付基礎日額の503日分 9級:391日分 10級:302日分 11級:223日分 12級156日分 13級:101日分 14級:56日分 障害特別支給金として65万円から8万円までの一時金、傷害特別一時金として算定基礎日額の503日分から56日分の一時金 |
遺族年金 | ①遺族等年金 労災事故により死亡したとき ②遺族等一時金 (1)遺族補償年金を受け得る遺族がいないとき (2)遺族等年金を受けている人が失権し、他に受け得る人がいない場合で、かつ、支給済み年金及び遺族等年金前払一時金の額の合計額が 給付基礎日額の1000日分未満の時 | 給付基礎日額1,000日分の一時金((2)の場合は支給した合計額を差し引いた金額) 遺族特別支給金として遺族の数に関わらず一律300万円((1)の場合のみ) 遺族特別一時金として算定基礎日額の1,000日分の一時金((2)の場合は支給した合計額を差し引いた金額) |
葬祭給付 | 死亡した人の葬祭を行うとき | 315,000円に給付基礎日額30日分を加算した額、または、その合計額が給付基礎日額60日分に満たない場合、給付基礎日額60日分 |
傷病年金 | 傷病が療養開始後1年6か月を経過した日又はその日以降に以下(1)(2)いずれにも該当するとき (1)傷病が治癒していないこと (2)傷病による障害が傷病等級に該当すること | 1級:給付基礎日額の313日分 2級:277日分 3級:245日分 傷病特別支援金として114万円から100万円の一時金を、傷病特別年金として算定基礎日額の313日分から245日分の年金 |
介護給付 | 障害補償年金または傷病補償年金受給者のうち、第1級又は第2級の精神・神経障害及び胸腹部臓器の障害があり、現に介護を受けているとき | <常時介護の場合> 介護費用として支出した額(上限172,550円) 親族などにより介護を受けていて介護費用を支出していない場合、または支出額が77,890円を下回る場合は77,890円 <随時介護の場合> 介護費用として支出した額(上限86,280円) 親族などにより介護を受けていて介護費用を支出していない場合、または支出額が38,900円を下回る場合は77,890円 |
二次健康診断等給付 | 事業主が行った直近の定期健康診断で、以下(1)(2)いずれにも該当するとき (1)血圧、血中脂質、血糖、腹囲またはBMIの検査すべてで異常があると診断された (2)脳血管疾患または心臓疾患の症状がないと認められた | 二次健康診断および特定保健指導の給付 |
このように、労災保険では項目が決まっていたり、支給の上限が決まっていたりと、必ずしも十分な補填が受けられません。
特に、慰謝料などの精神的な損害について補填する項目がありませんので、実際に被った損害よりも少額の支給しか受けられないということも考えられます。
労働災害があった場合に、労災の給付のみでは不十分な結果になることがあるので、会社への責任追及も並行して考える必要があります。
会社への責任追及をすることができる条件
労働災害が起きた場合、会社に対しては、不法行為責任や労働契約を根拠とした債務不履行責任に基づいて、会社から損害賠償を受けることができる可能性があります。
このように、会社に対する請求には、不法行為責任と債務不履行の2つが考えられます。
使用者責任
不法行為責任としては、「使用者責任」という責任追及が考えられます。
使用者責任とは、その会社の従業員が、業務を行うにあたって、第三者に損害を加えた場合に、会社がその従業員の与えた損害について責任を負うという制度です。
そのため、職場の労働者のミスによって負傷したなどの場合には、会社に対しての使用者責任を追及することができると考えられます。
もっとも、従業員のミスがあったからといって、必ずしも会社が責任を負うわけではありません。
会社が、労働者の監督に対して相当の注意をしていたときや、相当の注意をしたとしても損害が生じるような場合には、会社は責任を負いません。
安全配慮義務違反
会社は、労働者が業務上負傷したり、疾病を負わないようにするなど、労働者が安全に仕事を行うことができるような環境を整える義務があります。
このような義務があるにも関わらず、会社が、労働者にとって危険な環境を放置していたなどの場合には、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。
具体的にどのような場合に安全配慮義務違反を問うことができるかは、個別の事情に大きく影響されますが、少なくとも会社が、従業員に明らかに危険なことをさせていたというような場合には、安全配慮義務違反に基づく請求をすることが考えられます。
会社への責任追及をするためにしてはいけないこと
会社に不法行為や、安全配慮義務違反があれば、会社に対して損害を請求することができるのが通常ですが、会社に対して責任を追及するためにやってはいけないこともあります。
以下のことをしてしまうと、本来なら会社にできたはずの責任追及をすることができなくなってしまうということがありますので注意が必要です。
会社と示談をすること
会社から示談を持ちかけられた場合に、これに応じてしまうと会社に対する責任を追及することができなくなってしまいます。
会社で事故が発生した場合に、会社から、示談をするべく書類にサインをしてほしいと言われても、安易に応じるべきではありません。
こうした書類にサインをすることで、今後一切の責任を追及しませんという「清算条項」を認めることとなり、結果、会社への責任が追及できなくなってしまうことがあります。
書類にサインを求めることが典型ですが、口頭でも「穏便に済ませる」など合意しない方がよいです。口頭でこうしたやりとりがあったことが原因となって、早期の解決ができなくなることも考えられます。
会社への責任を長期間放置すること
労災の申請は、慣れない手続きであるため、時間もストレスもかかり、非常に大変です。
そのため、労災の申請のみを行って、会社への責任追及は後回しにして、結果、長期間放置することがあり得ますが、これも会社への責任追及ができなくなる要因になりかねません。
不法行為責任も安全配慮義務違反に基づく責任も、消滅時効があります。
長期間放置することで、請求権がなくなってしまうことがあるので、労災の申請と会社への責任追及は並行して行うことが得策です。
まとめ
ここまで、労働災害が起きた場合に会社に責任追及ができるか、また責任追及をするためにやってはいけないことをご案内しました。
労働災害では、会社への責任追及をすることとセットで考えることが重要です。
ここまでご案内したように、会社への責任追及をするためにするべきでないこともありますので、これをやってもいいのだろうか、と思った場合には、是非一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。
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