仕事中の事故や通勤途中の転倒などで、腕を骨折してしまうケースは少なくありません。
もし、労災が原因で腕を骨折した場合、労災保険による補償を受けることができる可能性があります。
このコラムでは、労災による腕の骨折について、後遺障害や慰謝料について詳しく解説します。
労災認定の要件
労災による腕の骨折で補償を受けるためには、業務災害または通勤災害として認定される必要があります。
業務災害
仕事中の事故、作業中の怪我、あるいは業務が原因で発生した病気など、業務に起因して発生し たものです。
例えば、工場で機械を操作中に手を挟んで骨折した場合や、建設現場で高所から転落して腕を骨折した場合などが該当します。
通勤災害
住居と就業場所の間の合理的かつ通常の経路および方法による通勤途中の事故など、通勤に起因して発生したものです。
例えば、会社へ向かう途中に自転車で転倒し、腕を骨折した場合や、電車内で転倒して腕を骨折した場合などが該当します。
ただし、注意が必要なのは、「業務遂行性」 と 「通勤性」 が認められる必要があるということです。
業務遂行性
災害が発生した際に、労働者が業務を遂行していたと認められることです。
例えば、休憩時間中に私的な行為をしていて怪我をした場合は、業務遂行性が認められない可能性があります。
通勤性
災害が発生した際に、労働者が通勤していたと認められることです。
例えば、通勤途中に大きく迂回して私用を済ませていた場合は、通勤性が認められない可能性があります。
また、疲労骨折のように、長期間にわたる過重な労働が原因で骨折した場合も労災に該当する可能性があります。ただし、この場合は、仕事と骨折との因果関係を明確に証明する必要があります。
労災保険の種類
そもそも労災保険では、どういった給付を受けることができるのでしょうか。その種類は、
以下の通りです。
①療養(補償)等給付
→労災による傷病治癒されるまで無料で療養を受けられる制度
②休業(補償)等給付
→労災の傷病の療養のために休業し、賃金を受けられないことを理由に支給されるもの
休業補償が受けられる期間は、基本的に「休業4日目から仕事に復帰するまで」です。原則として、労働災害により労働できず、賃金を受け取っていない期間中は、休業(補償)給付を受け続けることができます。
③傷病(補償)等年金
→療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、一定の傷病等級(第1級から第3級)に該当するときに支給されるもの
④障害(補償)等給付
→傷病が治癒したときに身体に一定の障害が残った場合に支給されるもの
⑤遺族(補償)等給付
→労災により死亡した場合に支給されるもので、遺族等年金と遺族(補償)等一時金の2種類が存在する
⑥葬祭料等(葬祭給付)
→労災により死亡した場合で、かつ葬祭を行った者に対して支給されるもの
⑦介護(補償)等給付
→傷病(補償)等年金または障害(補償)等年金を受給し、かつ現に介護を受けている場合に、支給されるもの
⑧二次健康診断等給付
→労働安全衛生法に基づく定期健康診断等の結果、身体に一定の異常がみられた場合に、受けることができるもの
基本的に、8つとなっており、このうち、後遺障害が残ってしまった場合に関連する給付は④の障害(補償)等給付となります。
労災における後遺障害とは?
労災においては、腕の後遺障害が問題となることが少なくありません。
後遺障害とは、治療による改善が見込めず将来的に一定の症状が残存する状態をいいます。
通常、これ以上治療しても症状が改善しないと判断されることを、「症状固定」と言います。医師が診断書にそれを書いて決めます。
後遺障害には重い方から順に、1級~14級の等級があります。
これらが認定されると、それぞれに応じた給付がなされることになります。
腕の骨折では、痛みやしびれ、関節の可動域制限、変形などの後遺障害が残る可能性があります。
後遺障害は、労働能力の喪失または低下を伴うので、日常生活や仕事に支障をきたす可能性があります。
後遺障害が残った場合は、後遺障害の認定申請を行う必要があります。
労災で起こりうる腕の骨折には、様々な種類があります。
骨折は、どの骨が折れたのか、どのように折れたのかによって、病名が異なります。
ここでは、労災で起こりうる腕の骨折の具体的な病名をいくつかご紹介します。
上腕骨骨折
- 上腕骨顆上骨折
- 上腕骨骨幹部骨折
- 上腕骨外科頸骨折
前腕骨骨折
- 橈骨遠位端骨折(コーレス骨折)
- 橈骨骨幹部骨折
- 尺骨骨幹部骨折
- 橈骨頭骨折
- モンテギア骨折
- ガレアッツィ骨折
手根骨骨折
- 月状骨骨折
- 舟状骨骨折
- 豆状骨骨折
その他
- 上腕骨内側上顆骨折
- 上腕骨外側上顆骨折
- 尺骨鉤状突起骨折
これらの骨折は、転倒、墜落、衝突、挟まれなど、様々な原因で発生する可能性があります。
骨折の程度や種類によって、治療方法や予後が異なります。
後遺障害の認定について
後遺障害の認定を受けるためには、以下の手順を踏む必要があります。
- 症状固定: 治療を続けても症状が改善しない状態になることを「症状固定」といいます。医師から症状固定と診断されたら、後遺障害の認定申請を行うことができます。
- 後遺障害診断書: 症状固定後、医師に後遺障害診断書を作成してもらいます。この診断書は、後遺障害の程度を判断するための重要な資料となります。
- 労働基準監督署への申請: 後遺障害診断書などの必要書類を労働基準監督署に提出します。
- 審査: 労働基準監督署は、提出された書類に基づいて、後遺障害の等級を審査します。
- 認定: 審査の結果、後遺障害の等級が認定されます。等級に応じて、年金または一時金が支給されます。
障害(補償)等給付の種類
・障害等級第1級から第7級に該当:障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金 ・障害等第8級から第14級に該当:障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金 |
障害(補償)等給付としての支給は、傷害の程度により大きく2つにわけることができます。
後遺障害の等級は、大きな後遺障害ほど小さい数字の等級が認定されるので、第1級から第7級という後遺障害のなかでも特に深刻なものについては、年金として、等級に応じた金額が毎年(6期に分けて支給)支払われます。
腕の骨折の慰謝料は?弁護士に依頼する必要があります
実は、労災からもらえるもの以外で、会社に請求できるものがあります。
まずは、
後遺障害が認定されれば、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という2つの損害を請求できることになります。
後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益は、労災からは支給されません。
これらを請求するには、自分が所属する会社などを相手に損害賠償請求を行う必要があります。
ただ、この損害賠償請求は、会社に過失(安全配慮義務違反)がなければ認められません。
安全配慮義務違反とは、会社が労働者の安全を確保するために必要な措置を怠ることです。例えば、危険な作業場に安全装置を設置していなかったり、労働者に安全教育を施していなかったりした場合などが該当します。
会社に過失が認められるかどうかは、労災発生時の状況や会社の指導体制などの多くの要素を考慮して判断する必要がありますので、一般の方にとっては難しいことが現実です。
弁護士にご相談いただければ、過失の見込みについてもある程度の判断はできますし、ご依頼いただければそれなりの金額の支払いを受けることもできます。
また、一般的に、後遺障害は認定されにくいものですが、弁護士にご依頼いただければ、後遺障害認定に向けたアドバイス(通院の仕方や後遺障害診断書の作り方など)を差し上げることもできます。
そのため、労災でお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
参考
使用者への損害賠償請求では、具体的には、以下の損害を請求することができる可能性があります。
- 慰謝料:精神的な苦痛に対する賠償
- 休業損害:労災保険で補償されない分の休業中の収入減に対する賠償
- 逸失利益:後遺障害によって将来得られるはずだった収入減に対する賠償
- 治療費:労災保険で補償されない分の治療費
- 介護費用:後遺障害によって介護が必要になった場合の介護費用
- 後遺障害慰謝料:後遺障害慰謝料とは、後遺障害による精神的な損害に対する補償です。
このうち、後遺障害逸失利益とは、後遺障害により将来的な稼働能力が低下することに対する補償です。
後遺障害逸失利益は、基礎収入に各等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間(症状固定時から67歳までの期間)に応じたライプニッツ係数を掛けて計算します。
ライプニッツ係数とは、将来にわたって発生する賠償金を先に受け取る場合に控除する指数をいいます。
例えば、後遺障害11級の労働能力喪失率は、67%です。
例えば、年収400万円の正社員で症状固定時に40歳であれば、単純計算、
400万円×67%×14.6430=3924万円になります。
会社に請求できることを知らない方は結構多いです。
もらえる慰謝料の金額目安
入院・通院慰謝料とは、労災事故により怪我をしたために、入院・通院せざるを得なかったことに対する慰謝料です。
入通院慰謝料は、「傷害慰謝料」とも言うことがあります。
要は、怪我をしたこと自体に対する慰謝料です。
入院期間や通院期間に応じて、金額基準(相場)があり、次のような早見表で確認することができます。
弁護士に相談・依頼するメリット
弁護士に相談することで、労災の手続きをスムーズに進めることができます。また、会社との交渉や損害賠償請求訴訟を有利に進めることができます。
まとめ
ここまで、腕の骨折で、受け取ることのできるお金の種類、その計算方法、金額等について解説いたしました。
労働災害については、そもそも労災の申請を漏れなく行うことや、場合によっては会社に対する請求も問題となります。
労災にあってしまった場合、きちんともれなく対応を行うことで初めて適切な補償を受けることができますので、ぜひ一度弁護士にご相談いただけますと幸いです。
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